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瀬戸内的!本の紹介③


第3回「方丈記」鴨長明 著(岩波文庫)

今回ご紹介するのは、ちょっと瀬戸内っぽくないのですが、本を思い切り楽しめるこの時期にぜひ紹介したい1冊、「方丈記」。国語の教科書に必ず出てくるやつ。冒頭の文章は超有名。

ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例なし。世の中にある人と栖と、またかくのごとし。

いわゆる「無常感」ってやつでしょ。と思っている人も多いと思うのですが、この「方丈記」、読めば読むほどいろんな読み方ができるマジカルな一冊なのです。

そもそも鴨長明さんっていうのが、すごい面白い人。今から約850年前の1155年、平安時代末期に生まれた男の人です。この人がなかなかの曲者で、下鴨神社の神職の家に生まれるも、18歳で父親を亡くし、就職に失敗し、家もどんどん貧しくなって最終的には方丈(1丈=約3メートルなので、だいたい四畳半)の家に1人で暮らしました。それだけ聞くと、不運な生い立ちですね。ってことで終わるのですが、それでは納まらないのが長明さん。当時のスーパースター藤原定家を中心にした貴族社会の花形芸術である和歌のトップサークルに入れるくらい上手で、さらに上手だったのが音楽。流行の琵琶や琴はプロミュージシャン並だったそう。さらに自分の家を立てる際は自ら図面を引いているのだから建築家でもあるんですね。そして彼はジャーナリストでした。

「方丈記」の前半は、平安時代に起こった様々な災害の様子が事細かに書かれています。まさに「現場から中継です」っていうくらい。大火事はどこから出火したのか(この安元の大火で京は一晩で1/3が燃えた、ちなみに出火元とされるのはダンサーが泊まっていた安ホテル)、竜巻によってどんな見たことがないことが起こったのか(巻き上げられた家財道具が空中にあったらしい)、飢饉と疫病でどのくらいの人が亡くなったのか(左京だけで2ヶ月で42000人をカウント)、大地震では本震がどんなにすごい揺れで余震がその後どのくらい続いたか(1日に20-30回揺れたらしい)。具体的に伝えています。当時、長明さんにiphone渡してたら、すごい動画が撮れたのんじゃないかな。そのくらい現場の人なのです。現代じゃ考えられないけど、突如として清盛が「都を移します!」という宣言を出した福原遷都なんてものもあったけど、その時も京都からわざわざ福原=神戸あたりまで出かけていって(JRじゃなく徒歩で!)新しい都を直に見ています。

すごい変な人です。でもその内にある旺盛な好奇心や現場主義的な態度に私はとても共感が持てます。ここが少し瀬戸内的。
方丈の庵に一人暮らしていた時の話。この方丈の家、実は移動可能な組み立て式の家なのですね。モバイルプレハブハウス。牛車2台あればどこにでも持っていけるし、そのように設計されている。さらに、家の中の琴や琵琶まで組立式だっていうのですから、その工夫に脱帽。でもその工夫、手本にしたい!

晩年、これもわざわざ鎌倉くんだりまで歩いて行って鎌倉幕府の将軍 源実朝に会ったりもしている。四畳半から将軍までのなんという幅の広さ!出家しているのに、やりたくなければお経もサボるよ。とまで言い切っています。本当にこの人、面白すぎます。

かなりひねくれていて、めんどくさくて、生きるのが大変だったと思う(実際にいろいろと問題を起こしている)長明さんですが、62歳まで長生きをします。そして58歳の時に書いた、たった原稿用紙30枚ほどの随筆が「方丈記」。あっという間に読めるので、いろんな読み方をしていくと何度読んでも飽きません。昔の言葉はよくわからん。という人は、口語訳や現代語訳から入るとスッと読めます。
古典の新たな楽しみ方。「今」を生きる人の態度はいつの時代も変わらないということを教えてくれる一冊です。

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「方丈記」鴨長明 著(岩波書店)

<<合わせて読みたい>>

「方丈記私記」堀田善衛 著 (ちくま文庫)
作家自身が体験した東京大空襲と方丈記を重ね合わせ、新たな鴨長明の姿をあぶり出した名著。

「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2018記録集」(現代企画室)
十日町のキナーレで開催された「2018年の〈方丈記私記〉~建築家とアーティストによる四畳半の宇宙」。建築家 原宏司さんによる〈方丈記私記展〉についての文章が収録されています。

TEXT: 甘利彩子


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